ベルンシュタイン 社会主義の諸前提 Bernstein, The Preconditions of Socialism

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ベルンシュタイン 社会主義の諸前提と社会民主主義の任務

..Date: 2009.10.13;エドゥアルト・ベルンシュタイン,佐瀬昌盛訳;社会主義の諸前提と社会民主主義の任務,現代思想7

ベルンシュタインの基本的な認識は,マルクス・エンゲルスがたびたび社会主義革命の切迫を誤認したこと,しかし,後年のエンゲルスは,このような誤認を自ら認識し,修正を試みたこと(エンゲルスの遺言),破局における暴力革命という予測は,今やユートピア的な空想であること,これである。

冒頭に,唯物史観が,最初の経済決定論的な必然性論から,後年,エンゲルスによるイデオロギーの反作用に関する強調へと発展を遂げたことが論じられる。更に,ヘーゲル的な弁証法が現実の発展を無視した,ユートピア的発展の,すなわち,願望実現的な予測に導くといい,そのマルクスらへの影響を論じる。この点に関連し,ルクセンブルクのベルンシュタイン批判をめぐっても,ルクセンブルクの論理へのヘーゲル的弁証法の影響が論じられていることが注目される。

あとがきでは,レーニン主義が批判され,それがテロルによる恐怖政治に陥っていることが指摘される。破局理論に関しては,窮乏化論,階級分化論(これに反して,株主という形態による資本の所有者,中小企業主等の中間層の増加や,いわゆる「プロレタリアート」の階層分化がむしろ見られるという。マルクスが,企業体と資本の所有者を混同していること,少なくとも,その取扱いに混乱がみられること,これが社会主義者たちに踏襲されていることを正当にも指摘する),周期的恐慌論が実証的に批判される。(最後の点については,その後の大恐慌がベルンシュタインの予測に反しているとの批判があり得るが,それも,労働者階級による革命を導かなかったこと,資本主義はその後も飛躍的な発展を遂げたことにより反駁されるであろう)ベルンシュタインのこれらの批判及び資本主義の「適応能力」(金融と独占の積極的役割が論じられているのが興味深い)に関する予測は,その後の歴史により十分に証明されている。レーニン主義の未来についても同様である。

ベルンシュタインによれば,民主主義とは,政治的自由と平等及び政治権力を担う者の交代の可能性を承認する議会制度を内容とする,いずれの階級にも特権を認めない政治制度である。この点で,単純な,多数者の少数者支配ではなく,今日の少数者が明日の多数者として統治することを認める制度である。この民主主義は,社会主義の手段であるとともに目的でもある。そして,労働者階級の知的・道徳的成熟が,この民主主義に支えられるとともに,これを豊富で実質的なものとし,社会改良を通じて,社会主義的な新たな秩序を造り上げていくと主張する。著者により繰り返される,「破局」により政治権力を掌握すれば直ちに「社会主義」が実現すると考えるのは,ユートピア的幻想であるとの指摘は,強い説得力がある。

本書が清水幾太郎が編集に参加した「現代思想」(ダイヤモンド社)に収められていることにも,大きな理由があろう。グラムシの「知的・道徳的指導」や「新秩序」といった概念は,いかにもベルンシュタインを思わせるものではないか。また,レーニンは,一時期,「ヘーゲル主義」の「転倒」を強く推進しようとしたことがあるが(共産党の理論活動としてであろう),それは,どのような経緯により,どのような動機に基づいて提唱されたものか。ベルンシュタインのヘーゲル主義批判と何らかの関係があるのか。これらも興味深い検討課題である。

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