田中美知太郎 時代と私 Tanaka, Michiarou Jidai to Watakushi

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田中美知太郎 時代と私 Michitarou Tanaka, Jidai to Watakushi

June 16, 2018 ;

田中美知太郎;時代と私

1902年生まれの著者の自伝。

著者は、上智大学を中退して京都大学に選科入学し、修了(本書からは学位等が明らかではない)後、法政大学や東京文理大学(後の教育大学)でギリシャ語、ドイツ語、ギリシャ哲学等の講師として勤務する。若年時は、社会主義者、無政府主義者等とも関係があった。この部分は、このような運動に関与するに至った著者自らの動機や経緯に関する説明が欠けているが、当時の社会主義者や無政府主義者の思想と行動を知る上で貴重である。

その後の白眉は、2.26事件前後の状況の観察と感想、太平洋戦争に至るその後の5年間の政治と社会の状況に関する叙述であろう。

そして、著者は、敗戦の年の空襲により文字どおり瀕死の火傷を負うが、かろうじて命をとりとめる。

著者は、終始社会と政治の冷静な把握の必要性を説き、軍を批判するとともに、絶対的な平和論やモスクワのための「反戦」論を批判する。その立場は「和平論」と称される。

298:「二・二六事件は戦争回避の理性的なブレーキを破壊するものであった」。

この時期にこの書と出あったというのも、奇しき偶然である。大げさに言えば、運命的なものすら感じる。著者は、西田幾多郎の手紙に関連して、後世に書を残したいという願望をすなおに肯定すべきだとも述べている。

学問に生きる、著者はそれを選び、その道を徹底した。すばらしい。若年時の行動の動機等、語られていないこともあるが、語られていることは、可能な限り客観的に述べられているという印象を持つ。書店での盗みや火傷を負う経緯など、その虚飾のなさに驚く。

なお、西田幾多郎や三木清の哲学に対する率直な批判も記されており、その内容は手厳しいものである。

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