資本主義の精神 The Geist of the Capitalism

資本主義の不可避的没落が語られて久しい。利潤率の傾向的低下、労働者の絶対的窮乏化、恐慌、独占資本の腐朽性と帝国主義戦争、しかし、いずれもその没落を招かなかった。それどころか、それはIT革命を、すなわち印刷術による各種文献の広範な普及、産業革命に続く、世界史的・革命的な変化を、もたらしつつある。

以下には、メモ的なものにとどまるが、資本主義の精神に関わる文献を紹介し、論じる。

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ヒックス 『経済史の理論』 講談社学術文庫

慣習的経済による分業と、生産物の収取、交換の発展、商人的経済の発生(祭市、支配層の従者の商人化、国家間の貿易)とその慣習的経済への浸透。商人的経済の発展の基礎としての法制の整備及び貨幣価値の公証、これを可能とするためのセンターの形成と権力によるその保護、都市の形成、手形・小切手の発明による私的貨幣の創造、有限責任会社の発明による信用の拡大(有限責任会社の発達は、他方で国家による租税徴収を容易にした)、権力による銀行の掌握と中央銀行の発生。これらが史的・論理的に展開される。大阪の先物市場への言及があり、また、法哲学者ハートの引用もある。すばらしい。

慣習的経済に基礎を置く国家が税収において行き詰まることも正しく指摘されている。

ヒックスの説く商人的経済は、原料に労働を付加する手工業を含むものであったが、以上のような商人的経済の発展によって信用が拡大すると、固定資本への投資の飛躍的増大を可能とする条件が生まれる。これに技術的な発明による機械化(生産機械を製造する工作機械の発達がこれを加速する)が加わり、産業革命が起こり、それまでの前工業社会に代わる工業社会が現れる。

産業革命は、機械化によって労働を不要とするが、長期的・全体的に見れば、生産の拡大により労働需要が増大することが示唆されている。

資本主義の精神はこのようにして生まれたのであり、「プロテスタンティズムの倫理」はその結果にすぎない。

なお、領主・農民制度については、土地に関する安全の保障の必要性という条件の下で、領主・農民が相補的に依存して安定した生産を確保するための体制であったことが指摘されており(186)、これを前提として農業生産形態の歴史が論じられている。論述の中心は、農業の商業化の過程において、どのように農業労働力の希少性を安価に克服するかであり、農奴としての土地への緊縛が一つの方向であることが指摘されている。一方、小作制度は、労働力の移動が生じる状況において、例えば貴族らによる土地開発とそこへの労働力の吸収の一形態となった。なお、土地の安全の保障は、領主に代わって国家が行うこともできる。国家は領主への貢納に代わる租税を徴収する。さらに、土地の安全保障のほかに、農業の自然及び市場依存性による不安定性を克服するには一定規模の資本が必要であり、すべての農民が小規模の独立農場経営を営むことができるわけではないことが指摘される(195)。地主・小作制度は、これに対する一つの合理的解決であり得る(200)。ヒックスは、このようにして規模の大きな資本によって支えられた、従属農場経営を含む大規模農業を発展の方向として示唆するのである(202)。このような農業に関する分析は、ブルツクスにも通じ、いわゆるマルクス主義においては決定的に欠けているものである。

国家による経済への介入は、「行政革命」として論じられ(272)、第1次世界大戦を契機として急速に進行したことが述べられている。自由貿易に対する保護主義的な対応は、行政革命によって発達した近代的官僚機構を通じて広範に行われるようになった(「共産主義」はその極致である)。このような国家による政治的な介入が、資本及び労働力の自由な移動による世界的・全体的な経済の発展を妨げる。

これらの諸力は、結局、世界をどのような方向に向かわせるのか、それに関する明確な答えは、もとより示されていない。

へーゲル 『歴史哲学講義』


精神の発展、自由の概念の発展として歴史をとらえる。しかし、各論は理解が困難である。直観的な把握が延々と述べられているという印象を抱く。


キリスト教や当時のドイツ国家との関係において、和解的な論述をせざるを得ず、それがこのような混乱した印象を与える叙述につながったということだろうか。


プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神の先駆けともみられる叙述がある。すなわち、プロテスタンティズムによって初めて、人の世俗的活動と神の恩寵が結び付けられたと。マックス・ウェーバーはこれに影響を受けているのだろうか。

エンゲルス 『空想から科学へ』1892年英語版への序文

資本主義の発達をめぐって,その精神が宗教的外被の下に闘われたと述べ,カルヴァニズム,とりわけその予定説が資本主義的精神を代表していたという。これは,1920年発表(岩波文庫版の記載に従うとこうなる)のマックス・ヴェーバー著プロテスタンティズムと資本主義の精神を先取りするものではないだろうか。

トレルチ 『ルネサンスと宗教改革』 岩波文庫

ルネサンスの貴族的性格(「万能の教養人」)を指摘し,それは,キリスト教的「禁欲」の束縛を解き,芸術・学問の自由な発展をもたらしたが,カトリック教会を中心とした既存の体制に寄生的であり,ゆえに,それを打ち破る力とはならなかったという。<しかし,メジチ家等からの教皇の出現は,カトリック教会を内から崩す,あるいは,これを支配し操縦する試みとして把握する余地はないのか?>

これに対し,宗教改革は,キリストの教えに帰れという原理主義的・禁欲的なものであり,学問・芸術の発展に寄与したものとはいえないが(むしろ,カトリック,あるいは,プロテスタントの激しさを避けたイギリス国教会から芸術・学問の担い手が生まれたという。例えば,デカルト,ガリレイ,パスカル等。p.62),国民国家,個人主義,職業といったその思想の内容が<資本主義>社会の発展を促進し,ヨーロッパを大きく変えることにつながった(p.57。「社会学的により強力な宗教改革の勝利」)。そして,その土台の上に「啓蒙主義」が近代を準備した。

プロテスタンティズムが資本主義の発展に寄与したという点においては,マックス・ウェーバーに同じである。解説によると,トレルチとウェーバーは親交があった。ルネサンス以降のヨーロッパ思想史を検討するについては,必読の文献なのであろう。なお,トレルチは,本来プロテスタント神学者であり,ウェーバーの影響もあり,宗教社会学等の研究を行ったという。

伊東光晴 『シュンペーター』 岩波新書

シュンペーター,1883年生,ケインズに生年同じ。同年マルクス死す。

戦時における紙幣増発による戦後インフレの回避のため,財産課税を提案したが,政治がそれを許さなかったという経験をしたとのこと。確かに,戦時増発紙幣の所持者に対し累進的な財産課税をすることが,戦後インフレの回避策としては唯一有効な方策のように思える。

シュンペーターは,ワルラスの一般的均衡論を祖述した後,経済発展の理論を書いて,企業者が新結合を遂行する役割を担い,銀行がその後ろだてとなること,これにより企業者利潤が生じること,このような動的な発展の契機が資本主義に内在していることを明らかにした。

その後,経済循環の研究に移り,好況,不況の循環を経済の生理としてとらえることを主張し,ケインズに反対した。そのため,孤高の学者にとどまり,多くの後進に支持されるということがなかった。

個人生活もさほど幸福なものではなかったようだ。出自は,資産家で,母の再婚相手が貴族である。各国語を学習し,イギリスで学問的な訓練を受けたため,イギリスに対する憧憬が強かったという。また,オーストリアのマルクス主義者たち,すなわち,オットーバウアー,ヒルファーディングなどと親しかったが,前者からは,社会主義の裏切り者と断罪されたという。

シュンペーター 『租税国家の危機』

戦後(第1次世界大戦後)インフレーションを防止するため,貨幣の回収の必要性を説き,財産税を提唱する。確かに,これが最良の方策であろう,政治の世界でその方策が採られればであるが。

また,ロシア革命のユートピア性を指摘し,その破局を予言する。そして,生産の現段階では,共同体所有は無理であって(共同体所有における競争の消滅等を指摘し,それは生産が高度に発展した段階において初めて可能であって,また,生産の停滞要因となることを正しく指摘する。),市場経済における企業者による生産要素の新結合が重要であり(これが『経済発展の理論』の中心的主張である),それゆえにこそ,(おそらく共同体所有の段階では消滅することになる)租税国家なるものの生命は尽きていないことを指摘する。おそらく,マルクスもそう述べたであろうと論じてである。

ロシア革命の将来に対する正しい指摘である。

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