冬のスケッチ・デジタルテキスト
宮沢賢治『冬のスケッチ』は、2025-101=1924年『春と修羅』に結晶した。
冬のスケッチを、新校本全集を底本としてデジタルテキスト化しました。
「《》」で囲まれた語は、その直前の語のルビです。青空文庫の記述方法にならいました。
「[]」は、同全集と同じく、本文が校訂の結果決定されたことを示します。その詳細については、同全集校異篇の該当部分を参照願います。
何回か校正しておりますが、誤りが全くないとは言い切れません。ご留意ください。
本文は、同全集に従い、第一形態(最初の浄書形。書きながらの、あるいはその直後と思われる、同一筆記具による加筆修正を含む)に基づきます(同全集第一巻本文篇xvi頁)。その後の加筆修正や最終形態については、同全集を参照願います。なお、第一形態が成る途中の加筆修正にも重要なものがあり得ます。これについても、同全集校異篇が詳細に記しています。
「読書会」とあるのは、宮沢賢治研究会読書会を指します。「佐藤著」等とあるのは、佐藤勝治『”冬のスケッチ”研究』を指します。各葉が本来どのように並んでいたのか、現在では分からない状態となっており、同読書会では、読み進める順序について一つの案を定め、これに従っています。また、佐藤著は、本来の順序について一つの説を提示しています。これらについて、各葉に必要な注記を加えました。
第一葉 読書会読書順の最初葉
冬のスケッチ 四、
※
芽は燐光
樹液はまこと月あかり
※
薄明穹黄ばみ濁り
こひのこゝろはあわたゞし
こひのこゝろはつめたくかなし
※
西の黄金の
尊きうつろに もつれし技はうかびたり
技にとまりて からす首をうごかせり。
※
さびしきは
雪のはんのきのめばな
雪のはんのきのその燐光
※
しらくもの
日にかゝれば
高く飛ぶ鳥かな。
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第二葉
※
日いよいよ白き火を燃したまひ
ひかるは電信ばしらの瀬戸の碍子。
※
銀のモナドを燃したまひ
日輪そらに かゝります
早坂の黒すぎは
みだれごゝろをしづに立つ。
※
のばらにからだとられたり
水なめらかにすべりたり。
※
うすぐもり
日は白き火を波に点じ
レンブラントの魂ながれ
小笹は宙にうかびたり
※
これは浅葱の春の水なり
まさに浅葱の春の水なり
かずのぶが蒔絵の中の浅葱水なり。
_____________________________________
読書会、第一三葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第四葉へ。
第三葉
※
雪ふれば杉あたらしく呼吸す
雪霽るれば杉あたらしく呼吸す
※
雪すこしふリ
杉にそゝぐ飴いろの日光
なほ雪もよひ 白日輪、
からすさわぐ
※ 農園設計
十月はひまはりを見る。
夏はケールとはなやさい。
六月はひなげしを見る
春はたねを見る。
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読書会、第三一葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第二五葉へ。
第四葉
そのとき人工の火ひらめきて
水より滋くもえあがり
またほのぼのと消え行けり。
※
なにゆゑかのとき きちがひの
透明クラリオネット、
わらひ軋り
わらひしや。
※
たばこのけむり かへって天の
光の霧をかけわたせり。
※
せんたくや、
そのときまったく泪をながし
やがてほそぼそ泪かわき
すがめひからせ
インバネスのえりをなほせり。
※
三疋の
さびしいからす
_____________________________________
第五葉
三人の
げいしゃのあたま。
※
あたかもそのころ
キネオラマの支度とて
紫の燐光らしきもの
横に舞台をよぎりたり
※
(その川へはしをかけたらなんでもないぢゃ
ありませんか。)と、おもひつめし故かへって
愚のことを云ヘり。
※
あけがたを
雲がせわしくながれて行き
上等兵は
たばこの火をぴたりと地面になげすてる。
※
劇場のやぶれしガラス窓に
するどくも磨かれ、むらさきの身を光らしめ
西のみかづき歪みかゝれり。
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佐藤、欠落部分を挿んで、第六葉へ。
第六葉
ぬすまんとして立ち膝し、
その膝、光りかゞやけり
ぬすみ得ず 十字燐光
やがていのりて消えにけり。
※ おもかげ
心象《しんしやう》の燐光盤に
きみがおもかげ来ぬひまは
たまゆらをほのにやすらふ
そのことのかなしさ。
天河石《てんが[]せき》 心象《しんしやう》のそら
うるはしきときの
きみがかげのみ見え来《く》れば
せつなくてわれ泣けり。
※ 寂静印
ぱんのかけらこぼれ
いんくの雫かわきたり。
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第七葉
※
九時六分のかけ時計
その青じろき盤面《ダイアル》に
にはかにも
天の栄光そゝぎきたれり。
※
しろびかりが室をこめるころ
澱粉ぬりのまどのそとで
しきりにせのびをするものがある
しきりにとびあがるものがある
きっとゾンネンタールだぞ。
※
さかなのねがひはかなし
青じろき火を点じつつ。
まことはかなし
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読書会、第一七葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで第一七葉へ。
第八葉
め居たれ
けむりかゝれば はんのきの
酸化銅の梢 さっとばかりに還元す。
※
ほんのきよ
きりのこされしはんのきよ
褐の雄ばなの房垂るゝ
その房もまたわれに与へよ。
与へずや。
※
ここの並木の松の木は
あんまり混み過ぎますよ
あんまり技がこみあって
せっかくの尾根の雪も
また、そら、あの山肌の銅粉も
なにもかもさっぱり見えないぢゃありませ
んか。すこし間伐したらどうです。
※
雪がふかいのならば
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第九葉
仕方もありませんけれど
これではあんまり
みちがくらすぎはしませんか。
※
いつの間にやら
銅粉をまいてけむってゐた山も見えません
し、
藍の山肌がゴリゴリの岩にかはり
川の向ふに黒くそびえて居りました。
※
和賀川のあさぎの波と
天末のしろびかり
緑青の東の丘をわれは見たり
※
(赦したまへ。)
この層はひどい傾斜です。
おまけに峡谷にはいりましてから
にはかに雪が増しました。
※
ぎざぎざに
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第一〇葉
ちぎられし
どてのひまより
ひかりの天末
かはるがはるのぞきたり。
※
あすこが仙人の鉄山ですか、
雪がよごれて黄いろなあたり。
※
夏油の川は岩ほりて
浅黄の波を鳴らしたり
雑木と雪のうすけぶり
ましろき波を鳴らしたり。
※
いたゞきの梢どもは
つめたき天にさらされて
けさなほ雪をかむりたり。
※
雪融の山のゆきぞらに
一点白くひかるもの
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第一一葉
恐らくは白日輪なりなんを
ひとびとあふぎはたらけり。
※
赤さびの〔廃〕坑より
水しみじみと湧きて鳴れり。
※
げに和貿川よ赤さびの
けはしき谷の底にして
春のまひるの雪しろの
浅黄の波をながしたり。
※
和賀川の浅葱の雪代水に
からだのりだす栗の木ら
その根は赤銹によりて養はる。
※
ならび落つる
泉を見んと立ちどまりしとき
かれ葉かさかさと鳴り
透明の雨はふりきたる
雑木のこずえに
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第一二葉
日輪白くかゝり在はせど。
※
さっきのごりごりの岩崖で
降り出したのは雨ではなかったぜ
霙らしかったよ。 霙だぜ。
※
わがもとむるはまことのことば
雨の中なる真言なり
あめにぬれ 停車場の扉をひらきしに
風またしとゞ吹き出でて
雲さへちぎりおとされぬ。
※
崖下の
旧式鉱炉のほとりにて
一人の坑夫
妻ときたるに行きあへり
みちには雪げの水ながれ
二疋の犬もはせ来る
されど 空白くして天霧し
町に一つの音もなけれど
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読書会、第三五葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第四六葉へ。
第一三葉 佐藤著による現存最初葉
※
風の中にて
ステッキ光れり
かのにせものの
黒のステッキ。
※
風の中を
なかんとていでたてるなり
千人供養の
石にともれるよるの電燈
※
やみとかぜとのなかにして
こなにまぶれし水車屋は
にはかにせきし歩みさる
西天なほも 水明り。
※
やみのなかに一つの井戸あり
行商にはかにたちどまり
つるべをとりてやゝしばし
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第一四葉
天の川をばながめたり。
あまの川の小き爆発
たよりなく行ける鳥あり
かすかにのどをならしつゝ
ひとはつるべを汲みあぐる。
※ 奉〔膳〕
つめたき朝の真鍮に
盛りまつり
こゝろさびしくおろがめば
おん舎判ゆゑにあをじろく
燐光をはなちたまふ。
※
ちり落ち来り
雪となりてつちにつむ
にっぽんなどとよばれたる
この気圏のはなれがたし。
※
桐の実は
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読書会、第四四葉へ。
佐藤、第四四葉へ。
第一五葉
このとき凍りし泥のでこぼこも寂まりて
街燈たちならぶ菩薩たちと見えたり
※
弓のごとく
鳥のごとく
昧爽《まだき》の風の中より
家に帰り来れり。
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佐藤、第一葉へ。
第一六葉
にはかにも立ち止まり
二つの耳に二つの手をあて
電線のうなりを聞きすます。
※
そのとき桐の木みなたちあがり
星なきそらにいのりたり。
※
みなみ風なのに
こんなにするどくはりがねを鳴らすのは
どこかの空で
氷のかけらをくぐって来たのにちがひない
※
瀬川橋と朝日橋との間のどてで、
このあけがた、
ちぎれるばかりに叫んでゐた、
電信ばしら。
※
風つめたくて
北上も、とぎれとぎれに流れたり
みなみぞら
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読書会、第一八葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第一五葉へ。
第一七葉
からす、正視にたえず、
また灰光の桐とても
見つめんとしてぬかくらむなり。
※
たましひに沼気つもり
くろのからす正視にたえず
やすからん天の黒すぎ
ほことなりてわれを責む。
※
きりの木ひかり
赤のひのきはのびたれど
雪ぐもにつむ
カルボン酸をいかにせん。
※
かなしみをやめよ
はやしはさむくして
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読書会、第三八葉へ。
佐藤、第三七葉へ。
第一八葉
※
行きつかれ
はやしに入りてまどろめば
きみがほほちかくにあり
(五百人かと見れば二百人
二百人かと見れば五百人)
いつか日ひそみ
すぎごけかなしくちらばれり。
※
散乱のこゝろ
そらにいたり
光のくもを
織りなせり。
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佐藤、第三五葉へ。
第一九葉
冬のスケッチ ㈤
※ 朝
みちにはかたきしもしきて
きたかぜ檜葉をならしたり
贋物師《いかものし》、加藤宗二郎の門口に
まことの祈りのこゑきこゆ
※
実をむすび日をさへぎれる桐のえだあり。
※
すこし置きたるかたしもを
吹きあげしたるきたのかぜ
日輪 はやくもしろびかり
銀の後光を 降らしたり
※
水のしろびかり見れば
こゝろきよめらる
日のしろびかり消ゆれば
うづまきてながるゝなみ
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第二〇葉
みなみの天末は
白金にしてひらけたれば
はやくもひとの飛び過ぐる。
※ なやみ
なやみは
ただし。
なやみは
白くみゆ。
※
かばかりも
しづむこゝろ、
雪の中にて
蝉なくらしを。
※
そのとき
雪の蝉
又鳴けり。
※
若きそらの母の下を
小鳥ら、ちりのごとく鳴きて過ぎたり。
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第二一葉
※
そらの若き母に
梢さゝぐるくるみの木
くるみのえだの
かぼそい蔓
※
そらしろびかり
くるみとは
げにもあやしき
気圏の底のいきものなるかな。
※
すこしの雪をおとしたる
母のみそらのしろびかり
あらそふはからす
枝をのばすはくるみの木
※
雪すこし降り
杉しづまり
からすども鳴く、鳴く、
かちだも折れよと鳴きわたる。
_____________________________________
読書会、第三葉へ。
佐藤、第三葉へ。
第二二葉
梢ばかりの紺の一本杉が見えたとき
草にからだを投げつければ
わづかに見える天の地図
※
地平線近くのしろびかりは
亜鉛の雪か天末か
うすあかりからかなしみが来るものか。
※
おゝすばるすばる
ひかり出でしな
枝打たれたる黒すぎのこずえ。
※
せまるものは野のけはひ
すばるは白いあくびをする
塚から杉が二本立ち
ほのぼのとすばるに伸びる。
※
すばるの下に二本の杉がたちまして
杉の間に一つの白い塚がありました。
如是相如是性如是体と合掌して
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第二三葉
申しましたとき
はるかの停車場の灯《あかし》の列がゆれました。
※
日曜にすること
運針布を洗濯し
うん針を整理し
試験をみる
それから つばきの花をかき
本をせいりし 手げいをする
とノー卜のはじに書けるなり。
※
天上に青白い顔が見える。
黄金の輪廓から。
※
ねばつちですから桐はのびないのです。
横に茶いろの枝をひろげ
いっぱいに黒い実をつけてゐます。
台の向ふはしろいそら、
ピンとはられた電信のはりがね。
※
_____________________________________
第二四葉
水こぼこぼと鳴る
ひぐれまぢかの笹やぶを、
しみじみとひとりわけ行けり。
※
隔離舎のうしろの杉の脚から
西のそらが黄にひかる
※
雨がふり出し
却って雪は光り出す
※
雪融けの洪水から 杉は
みんな泥をかぶった。
それからつゞいてそらが白く
雪は黄色に横たはり
鷹は空で口をあけて飛び
からずはからだをまげてないた。
※
かれ草は水にはかれ
そらしろびかり
崖の赤砂利は暗くなる。
_____________________________________
佐藤、欠落部分を挿んで、第一六葉へ。
第二五葉
※
きりあめのよるの中より
一すじ西の青びかり。
はじめは雪とあざわらひ
やがては知りつ落ちのこり
薄明穹のひとかけと
ほのかにわらひ人行けり。
※
これはこれ、はがねをなせる
やみの夜のなつかしき灰いろなり
そらよりは霧をふらしたれば
まちの灯は青く見え
らんかんは夢みたり、
又、鳥そらの方に鳴きて
川水鳴りぬ、これはこれ
まことのやみの灰いろなり。
※
鼓膜をどこからか圧すものがあるぞ
まっくろ林の方でかさかさ歌ってゐる声が、
_____________________________________
第二六葉
どうもはっきりわからないぞ。
※
灰いろはがねの夜のそこ
砂利にからだをほうり出せ。
※
灰鋳鉄のよるのそこ
あるき出せば風がふき出す
黒のフィウマス、並木松、
風が軋るぞ あるき出せ。
※
黒松ばやし
近づけば
おれは一つぶ。
林の磁石 松の闇。
※
灰鋳鉄のやみのそこにて
なにごとをひとりいらだち
罵るをとこぞ 天ぎらし。
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第二七葉
※
私は線路の来た方をふりかへって見ました。
そこは灰色でたしかに 死にののはらにかは
ってゐたのです。闇もさうでしたしかれく
さもさうでした。
※
シグナルに
にはかに青き火あらはれ
汽車かけ来りたれば
われせきを越しどてに座せり
霧青くふりきたり
列車に明き窓もなく
まことに夜の貨物のみ。
たゞしけむりはシグナルの赤をうつして
ひらめけり。あるひは青くながれたり。
※
(メキシコの
きぼてんの砂っ原から
向ふを見るとなにが見えますか。)
(ポポカテペトル噴火山が見えます。)
_____________________________________
第二八葉
(さうです。そんならポポカテペトル噴火山から下の方
を見ると何が見えますか。)
(ポポカテペトル山の上から下を見ますと
主にさぼてんなどが見えます。)
※
つゝましく肩をすぼめし家並に
さかまきひかるしろのくも。
※
雲のしらが 光りてうづまきぬ。
※
なまこぐものへり
あまりにもしろびかり
まぶしさに
目もあかれず。
※
天狗巣病にはあらねども
あまりにしげきこずえなり
(光の雲と 桜の芽)
※
気圏かそけき霧のつぶを含みて
_____________________________________
第二九葉
東京の二月のごとく見ゆるなり
腐植質のぬかるみを
あゆみよりしとき
停車場のガラス窓にて
わらひしものおり
又みぢかきマント着て
税務属も入り来りけり。
※
兄弟の馬喰にして
一人はこげ茶
一人は朝のうぐいすいろにいでたてり
ひげをひねりてかたりたり。
※
白きそらにて 電燈いま消えたり
されば腐植のぬかるみをふみて
ひとびとはたらきいでしなり。
※
電車のはしらはすなほなり
白きそらに行かんとするをふみとまり
※
_____________________________________
佐藤、欠落部分を挿んで、第三〇葉へ。
第三〇葉
※
用なき朝のシグナルの
青めがね白きそらをすかせり
※
栗駒山あえかの雪をたゝえたり
あえかの雲を流したり
天末は銀のいらだち 白びかり
※
しろきそらを
鳥二羽つかれてたゞよひしが
やがてもろともに
高ひのきの梢にとまれり。
※
みつむれば
栗駒山のつらなりの
雪の中よりひかりわき
しろびかり、又黄のひかりわき
わがこゝろの中に影置けり。
※
ぢっとつめたく、松のあしのうごぐをなが
_____________________________________
読書会、第八葉へ。
佐藤、第八葉へ。
第三一葉
※
西は黒くもそらの脚
つめたき天の白びかり
からまるはさいかちのふぢ
埃はかゝるガラス窓
つめたくひるげを終へ
ひとびとのこゝろそぐはず
西の黒くも、しろびかり
暖炉は石墨の粉まぶれ
たまゆらにひのきゆらげ〔ば〕
校長の広き肩はゞ
茶羅沙をくすぼらし門を出づ。
埃はかゝるガラス窓。
※
杉なみのひざし
山ぶきの茎の青から青のオーバ、
_____________________________________
第三二葉
いてふのこずえのひざしつくづく
天かけるゆげむら。
※
外套を着て
家を出ましたら
カニスマゾアばかり
きれぎれのくろくもの
中から光って居りました。
※
黒くもの下から
少しの星座があらはれ 橋のらんかんの夢。
ぞこを急いで[] その黒装束の
脚の長い旅人が行き
遠くで川千鳥が鳴きました。
※
そら中にくろくもが立ち
西のわづかのくれのこり
銀の散乱の光を見れば
にはかにむねがをどります
_____________________________________
第三三葉
※
川が鳴り
雲がみだれ
ぬかるみは
西のすこしの銀の散乱をうつす。
※
川瀬の音のはげしいくらやみで
根子の方のちぎれた黒雲に
むっと立ってゐる電信ばしらあり。
※
西公園の台の上にのぼったとき
大きな影が大股に歩いて行くのをおれは見
た。
※
こめかみがひやっとしましたので
霰かと思つて急いでそらを見ましたら
丁度頭の上だけの雲に穴があき
さびしい星が一杯に光って居りました。
それからまたそのことを書きつけて
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第三四葉
何座だらうともう一遍そっちを見ましたら
こんどはもうぼんやりした雲がいっぱいで
遠くを汽車がごうとはせました。
※
ほんたうにおれは泣きたいぞ。
一体なにを恋してゐるのか。
黒雲がちぎれて星をかくす
おれは泣きながら泥みちをふみ。
みちばたの小藪に
からだをおとしたとき
停車場の灯の列はゆれ
気圏も泣いてゐるらしい。
※
このとき星またあらはれ或ひはカシオペイ
アかと思ひ、あくびせり
はのぼのと夜のあくびせり
※
おれのかなしさはどこから来るのだ。
_____________________________________
読書会、第二二葉へ。
佐藤、第二二葉へ。
第三五葉
※
鉛筆のさきにて
まことたまゆら
ひらめき見えし
燐光よ。
※
でこぼこの地平線
地平線の上のうすあかり
うすあかくしてたゞれたり
いづちより来し光なるらん。
※ 線路
汽車のあかるき窓見れば
こゝろつめたくうらめしく
そらよりみぞれ降り来る。
※
まことのさちきみにあれと
このゆゑになやむ。
※
きみがまことのたましひを
_____________________________________
第三六葉
まことにとはにあたへよと
いな、さにあらず、わがまこと
まことにとはにきみよとれ、と。
※
ひたすらにおもひたむれど
このこひしさをいかにせん
あるべきことにあらざれば
よるのみぞれを行きて泣く。
※
まことにひとにさちあれよ
われはいかにもなりぬべし。
こはまことわがことばにして
またひとびとのことばなり。
かなしさになみだながるる。
※
みぞれのなかの菩薩たち
応はひゞきのごとくなり
はかなき恋をさながらに
まことのみちにたちもどる。
_____________________________________
読書会、第四二葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第四二葉へ。
第三七葉
はやくも酵母西をこめ
白日輪のいかめしき
(からすはなほも演習す。)
※
あまりにも
こゝろいたみたれば
いもうとよ
やなぎの花も
けふはとらぬぞ。
※
凍りしく
ゆきのなかからやせたおほばこの黄いろの
穂がみな北に向いてならんでゐます。
※ がけ
杉ばやし
けはしきゆきのがけをよぢ
こゝろのくるしさに
なみだながせり。
※
_____________________________________
読書会、第三九葉へ。
第三八葉
からすそらにてあらそへるとき
あたかも気圏飽和して
さとかゝれる 氷の霧。
※
眩ぐるき
ひかりのうつろ、
のびたちて
いちじくゆるゝ
天狗巣のよもぎ。
※
ながれ入るスペクトルの黄金
ひかりがゞやくよこがほよ
こころもとほくおもふかな。
※
ストウブのかげらふのなかに
浸みひたる 黄いろの靴した。
※
電信のオルゴール
ちぎれていそぐしらくもの
つきのおもてをよぎりては
_____________________________________
読書会、第四一葉へ。
佐藤、第四一葉へ。
第三九葉
たゞよひてみゆ
かなしき心象
なみださへ
その青黝の辺に
消え行くらし。
※
照準器の三本あしとガラスまど
微風はかすれ、松の針
このよのことかとあやしめり。
※
かれ草と雪の偏光
越え行くときは
ねばつちいけにからす居て
からだ折りまげ水のめり。
※
かれ草と雪の偏光
天をうつせるねばつちの
いけにかゞまり水のむからす。
※
すぎいまはみなみどりにて
_____________________________________
第四〇葉
葉をゆすり 葉をならし
青ぞらにいきづけること明らけし。
※
ある年の気圏の底の
春の日に
すぎとなづけしいきものすめりき
※
そらの椀
ほのぼのとして青びかり
気圏の底にすぎとなづくる
青きいきものら
さんさんといきづき 葉をゆする
※ 木とそら。
そらの椀
げにもむなしくそこびかり
杉はまさしく青のいきもの
額《ぬか》くらみ。
※
そらはよどみてすぎあかく
_____________________________________
読書会、終わり。
佐藤、欠落部分を挿んで、第一九葉へ。
第四一葉
青じろ、にぶきさびを吐く。
(そのしらくものたえまより
大犬の青き瞳《め》いまぞきらめきのぞくなれ。)
※ もだえ。
月の鉛の雲さびに
つみ、投げやれど
すべもなし。
そらうつす
ねばつちのいけに
かがまりて
からすゐたり
やまのゆきのひかりを。
※
くれぞらのしたにして
すっぱき雲と
うつろにほえる犬の声と。
※
つぎつぎに
_____________________________________
読書会、第四八葉へ。
佐藤、第三九葉へ。
第四二葉
まどのガラスに塵置きて
はるかなるはやしのなかの
たけたかき二本のすぎは
つめたききりと
はるとのなかに立ちまどふ。
※
あかきひのきのかなたより
エステルのくもわきたてば
はるのはむしらをどりいで
かれくさばたのみぎかどを
気がるにまがるインバネス。
※
光波のふるひの誤差により
きりもいまごろかゝるなり
げに白日の網膜の
つかれゆゑひらめける羽虫よ。
※ 光酸
_____________________________________
第四三葉
雲の傷みの重りきて、
光の酸をふりそゝぎ、
電線小鳥 肩まるく、
ほのかになきて溶けんとす。
※
かぜのうつろのぼやけた黄いろ
かれ草とはりがね、 郡役所
ひるのつめたいうつろのなかに
あめそゝぎ出でひのきはみだるる。
(まことこの時心象のそらの計器は
十二気圧をしめしたり。)
※
よくも雲を[濾]し
あかるくなりし空かな。
うつろの呆《ぼう》けし黄はちらけ
子供ら歓呼せり。
※
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読書会、第四六葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第三一葉へ。
第四四葉
ゆきをかぶりて
青らむ天の
下にあり
※
寂まりの桐のかれ上枝
点々かける赤のうろこぐも
※
火はまっすぐに燃えて
あるひは見えず
このとき
鳩かゞやいて飛んで行く。
※
灰いろはがねのいかりをいだき
われひとひらの粘土地を過ぎ
がけの下にて青くさの黄金を見
がけをのぼりてかれくさをふめリ
雪きららかに落ち来れり。
※
トウコイスのいた
くもをはけば
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第四五葉
かなしむこゝろまたさびしむ。
江釣子森とでんしんばしら。
※
くらいやまと銀のやま
かれくさとでんしんばしら
ラリックス。
※
そらの青びかりと酵母のくも
まことにてなみだかわくことあり。
※
やますそのかれくさに
うすびうづまき
黒き柳の木 三本あり。
※
げにもまことのみちはかゞやきはげしくして
行きがたきかな。行きがたきゆゑにわれと
どまるにはあらず。おゝつめたくして呼吸
もかたくかゞやける青びかりの天よ。かなし
みに身はちぎれなやみにこゝろくだけつゝ
なほわれ天を恋ひしたへり。
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読書会、第一五葉へ。
佐藤、第一八葉へ。
第四六葉
さびしき唇
※
栽えられし緑の苣を見れば
あらたに感ず海蒼色のいきどほり
陽光かたぢけなくも波立つを。
※
日輪光耀したまふを
かたくななるわれは泣けり。
※
黒き堆肥は
四月なり。
北の天末
Tourquois。
硝酸化合物は
いきどほろし
※
風青き喪神を吹き
黄金の草いよよゆれたり。
※ 光耀礼讃
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佐藤、欠落部分を挿んで、第四七葉へ。
第四七葉
白光をおくりまし
にがきなみだをほしたまへり
さらに琥珀のかけらを賜ひ
忿りの青さへゆるしませり。
白光のなかなれば
燐光ゆがむ 妖精も
ころものひださへととのへず
ほのぼのとしてたゞ消え行けり。
※
雨のかなたにて
雪赤くひかれり
また雲さら[に]くらくして
のこりのやなぎ
芽はゆすれり。
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読書会、第四九葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第四八葉へ。ただし、佐藤著によれば、第四八葉及び第四九葉は、他との関連が不明な、孤立したものである。
第四八葉
ボーイ紅茶のグラスを集め
「まっくらでござんすな、
おばけが出さう。」と云ひしなり。
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読書会、第三七葉へ。
佐藤、欠落部分を挿んで、第四八葉へ。
第四九葉
灼の石灰、光のこな
葡萄の葉と蔓とに降らす
火雲飛び去れば
わが小指ひきつる。
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読書会、第四葉へ。
佐藤、終わり。